TALEPOT interview003

MELLOW VOICEのなりたち

~スキルを磨き、実績を積んで~

※本記事は、外部パートナーがテイルポットのスタッフに取材をして作成したものです。

テイルポットが新たに立ち上げた音声作品レーベルMELLOW VOICEが話題を呼んでいる。同社の『義妹生活』(原作:三河ごーすと)からヒロインの「綾瀬沙季(CV:中島由貴)」、ヒロインの母親「綾瀬亜季子(CV:上田麗奈)」、それぞれを主役としたASMR作品を制作し、DLsiteで発売。多くのファンから好評を得た。

シナリオ制作会社から、どのようにして音声作品レーベルが生まれたのか? MELLOW VOICEの中心人物の1人であり、作家でもある落合 祐輔氏に話を聞いた。(MELLOW VOICEのプレスリリースはこちらから

シナリオから動画へ

――まず落合さんがテイルポットに合流するまでの話を聞かせてください。

僕は元々、映像系の専門学校に通っていて、2015年にライトノベルの新人賞を受賞、作家デビューをしました。その後は小説やゲーム、プレイバイウェブなどのライティングを担当していたのですが……。僕が大好きな、とあるゲームがありまして。そのゲームのライターを、テイルポットの三河ごーすと先生が探していたんです。僕は三河先生とは以前から仲が良かったので、そのゲームに凄く愛着を持っていることを補捉されて(笑)。ある日「落合さんは、このままファンでいたいですか? それとも関係者になりたいですか?」と。

――いきなり究極の選択ですね。

ですね(笑)。それで「関係者になりたいです!」と即答したら、テイルポットを通じて仕事をすることになりました。2018年のことです。
シナリオを書き始めてから早い段階で、他のライターさんが書いたシナリオのクオリティのチェックする役目も任されるようになりました。もともと大好きなタイトルだったので、僕は他のライターさんよりタイトルに関するインプットが多かったんですね。その点を買われたのだと思います。自分でも書きながら、他のライターさんの管理も担当する。いわゆるプレイングマネジャーとして働きました。

――では、そこからMELLOW VOICEへシフトしていったのでしょうか?

いえ、その前に、2020年から始まった『義妹生活』YouTubeチャンネルの総合ディレクターを担当していました。ここでの取り組みが、5年後のMELLOW VOICE設立にも大きく関わっています。

『義妹生活』の企画が立ち上がった当時、テイルポット内部ではライトノベル市場の変化に対して、「作家も、ただ小説を書いて売るだけだと生き残るのが厳しいよね」という危機意識があり、解決策を練っていました。その一つとして打ち出したのが、YouTubeチャンネルの運営です。まずYouTube上でIPを打ち出してファンを掴み、次にライトノベルとして出版、という計画を練ったんですね。この中で『義妹生活』は生まれました。

そして『義妹生活』の立ち上げに際して、『義妹生活』のYouTubeチャンネルの総合ディレクターを担当することになったんです。具体的な作業は、公開する動画のシナリオ執筆と、他のライターさんの原稿のチェック。声優さんの収録に立ち会って、演技に関してのオーダーを出す音響監督的なポジションや、もちろん動画全体のディレクションと、時には自分で動画を編集することもありました。こういった総合ディレクターの仕事は、現在まで5年ほど続けています。

ありがたいことに『義妹生活』は初アニメ化を無事に達成しました。そのアニメ化のタイミングで、テイルポットはMELLOW VOICEを立ち上げ、第1弾として『義妹生活』のASMR作品を発表することになったんです。そして『義妹生活』に関わっていた僕に、原作者でもある三河ごーすと先生から「MELLOW VOICEを一緒に盛り上げていきませんか?」とお誘いがあったんですね。

ですので、まとめると……。まずゲームのシナリオライターとして、次にYouTubeのチャンネルの総合ディレクターとして経験を積み、新規プロジェクトのMELLOW VOICEを任された、という流れです。MELLOW VOICE内では、個々のシナリオを書くよりも、プロジェクト全体を俯瞰で見る役目に就いています。制作進行的な役職ですね。

――ゲームシナリオの執筆とYouTubeチャンネルの総合ディレクターは、まったく違う業務だと思うのですが、戸惑いはなかったのですか?

戸惑いはそこまでなかったですね。実はMELLOW VOICEのずっと前から義妹生活のASMR企画があり、自分はそれにも携わっていたので。

勝算を持って挑戦した『義妹生活』

――MELLOW VOICEの設立前に、『義妹生活』のASMR企画があったという話でしたが、詳しいお話を教えていただけますか?

きっかけは、『義妹生活』の書籍版が出ることになった時でしたね。YouTube発の企画として『義妹生活』がスタートして、いざ小説の第1巻を出そうとなったとき、この書籍をビジネスとして成功させるための戦略を練りました。ただ書籍にして売るだけでは弱いので、ファンの皆さんに喜んでもらえるような付加価値をつけようと。そこでASMRに辿り着いたんです。

『義妹生活』のヒロインの綾瀬沙季は、YouTube時代から声優の中島由貴さんに演じていただいています。中島さんは色々な作品に出ていますし、歌、楽器、ダンスと幅広く活動していますが、2020年時点でASMR作品への出演はありませんでした。

当時は今ほどASMRがメジャーではなかったのですが、声優ファンの間では需要が高まっていたんです。ということは、中島由貴さんのASMRを用意すれば、『義妹生活』のファンはもちろん、きっと中島さんのファンにも届くだろうと。そこでASMR作品を制作したんです。書籍版の初版の帯限定で、QRコードを読むと、5~6分ほどのASMRを聴けるようにしました。幸いそのASMRは好評で、以降も新刊を出すたびに続けることができました。

幸運なことに、その後『義妹生活』は様々なメディアに展開することができました。2024年にはテレビアニメも放送されましたが、これで終わりではなく、作品の可能性をもっともっと広げていきたい。そう考えたときに、これまで書籍の販促として作ってきたASMRに再び注目したわけです。

しかも、この数年間で音声作品市場は大きく成長し、人気アニメ・ゲーム原作の公式ASMRがいくつもリリースされるようになっていました。その市場に、80分以上の本格的なASMRを出してみようと考えたんです。

私たちが作るASMRは、ファンからは好評でしたから、すでに『義妹生活』とASMRの相性がいいことは証明されていました。版元のKADOKAWA様も快くOKしてくださって。MELLOW VOICEの第1弾となる『義妹生活』ASMRは、こうして出来上がったわけです。

——最初にまず販促としてASMRを作ることで実績を積んで、そのノウハウを活かして本格的に参入した、という流れなのですね。

そうですね。先ほど触れたように、2020年当時は、まだASMRが世間的に広くは認知されていなかったように思います。ですが、実際にASMR作品を作って、ファンの皆さんから肯定的な反応があることを示し、実績を積んでいったんです。そのおかげで、版元のKADOKAWA様や、声優の中島由貴さん・上田麗奈さんにも「テイルポットが作るなら、きちんとしたものが出来上がるだろう!」と、信頼してもらえたんだと思いますね。

――実績を積んで、その信頼で新しいことに挑戦する。理想的なサイクルだと思います。しかし、ASMRの事業に参入するのは大変じゃありませんでしたか? シナリオひとつとっても、ゲームや小説とは違います。苦労もあったのではないでしょうか?

それは……う~ん、『義妹生活』については特にないですね。お仕事をした声優さんや音響監督さんは、いずれも経験豊富なプロフェッショナルですから。特に困ったことは起きませんでした。

もちろん実際にシナリオを書くときには苦労しますよ。たとえば現在進行中のプロジェクトで、「分身させる能力を持っている」というキャラを出すときに、「何人まで分身するんだ? これをどうやってASMR上で表現すればいいんだ? 台本にどう書けばいいんだ?」とか、そういう苦労はあります(苦笑)。ですが、これはクリエイティブな部分の楽しい悩みですから。ネガティブな意味での苦労話というのは思いつきません。むしろ音声作品を作っていると、クリエイターとして勉強になることが多いですね。

ひとつ具体的な話を出すと、これは音声監督の手腕に膝を打った、という話なんですが……。

『義妹生活』のASMRの中で、停電になるシーンがあったんですね。これを音声だけで表現するときに、たとえば「うわぁー! 停電した!」と台詞で言わせるのは簡単ですが、それだと説明的になってしまいます。不自然な台詞は没入感を削ぎますから、できる限り避けたい。けれど音声だけで停電を表現するのは至難の業です。

そこで音響監督さんが出してくれたアイディアが、「シーンが始まった時からエアコンなどの電化製品の音を入れて、停電になった瞬間に消す」という演出でした。それも大袈裟にブツっと切れるような、わざとらしい感じではなく、でも停電だと伝わる絶妙な塩梅を提示してくれて。こういう細部のこだわりが全体の没入感を生むんだなぁ、プロだなぁと、膝を打ちましたね。

これからのMELLOW VOICE

――話せる範囲で構いませんので、MELLOW VOICEの今後について教えてください。今後もコンスタントにASMR作品を発売していくのでしょうか?

そうですね。現時点で企画が14~15本ほどあって、その中の数本が版元様やIPホルダーの方々に承認していただき、実際に動いている段階です。MELLOW VOICEの第3弾、第4弾は、そんなに間隔を置かずに、ユーザーの皆様にお届けできるかなと。企画立案で上がっているものは全て形にしたいですね。

――それはテイルポットのオリジナルIPでしょうか?

いいえ、基本的に企業様から預けて頂いたIPですね。ASMR化することで、コミカライズやアニメ化では届いていなかった層にIPを届けることを事業命題にしています。まずはこの部分をきっちりと形にしたいですね。

長期的な目標を言うと、今はまだ企業様にASMR化を提案する立場ですが、いずれは企業様からASMR化の依頼を受ける立場になれれば、と思っています。たとえば、ライトノベルの編集部にとって、コミカライズやアニメ化と同じようなメディアミックスのひとつの選択肢になる、アニメの制作委員会にとって、グッズやイベントのような展開のひとつの選択肢になる、そういう状態に持っていきたいですね。

――では最後に、落合さんから見たテイルポットの強みを教えてください。

色々ありますが、パッと思いつくのは……テイルポットには、実績と経験がある同業者に、気軽に相談できる環境が整っていることですね。作家の仕事は個人作業になりがちなので、信頼できる人物に相談できるのは、やっぱり凄くありがたいです。

あとはライトノベル作家にとっての、ある種のセーフティーネットとしても、テイルポットは機能していると思います。僕が作家になってから10年ほど経ちますが、純粋な作家業だけで食べていくのは厳しかったです。もしもテイルポットに加わっていなかったら……それこそ三河先生の「関係者になりたいですか?」の質問に、NOと答えていたら、廃業していてもおかしくなかったかなと思います。テイルポットの作家ギルド的な側面ですね。

そして何より、テイルポットは僕のクリエイターとしての幅を広げてくれました。最初はシナリオのディレクションとしてテイルポットに合流しましたが、2020年の『義妹生活』の発足から、YouTubeチャンネルの総合ディレクターに就いて、映像制作のスキルを磨けたんですね。

僕はもともと映像の勉強をしていて、映像編集のスキル自体は持っていたんです。ただ、それを発揮する場がなくて、ずっと腐らせていました。そんな時に「作家で映像制作のスキルを持っているのは珍しいから」と、『義妹生活』での動画の仕事を任せてもらったんです。おかげで、ずっと腐らせていた映像制作のスキルを活かせましたし、もっと勉強するキッカケにもなりました。

結果的にはシナリオ以外にも、動画の仕事にも対応できるようになって。仕事の幅は確実に広がりました。クリエイターとしての自分の可能性を広げられたのは、間違いなくテイルポットに関わったおかげだと思いますね。

タイトルとURLをコピーしました